金属材料の表面処理として広く使用される無電解ニッケルめっきと硬質クロムめっきは、
それぞれの特性から多くの産業で重要な役割を果たしています。
無電解ニッケルめっきは電気を使わずに化学反応によって基材にニッケルベースのめっきをする方法で、
優れた耐食性、複雑な形状の部品にも均一な厚みが得られ、高い膜厚精度、高硬度などの特徴があります。
対してクロムめっきは、金属の表面にクロムの電気めっきを施すもので、高硬度と耐摩耗性を持ち、耐食性にも優れています。
以下では、これら2種の表面処理の特徴について比較し、それぞれの利点と注意点について解説します。
1. 無電解ニッケルめっきと硬質クロムめっきの比較
無電解ニッケルめっき | 硬質クロムめっき | |
めっき方法 | 化学反応による無電解めっき | 電気めっき |
膜厚の均一性 | 優れている(複雑形状にも対応) | 部分的な厚みの差が生じることがある |
耐食性 | 優れている | 優れている |
硬度 | 熱処理により高硬度を実現可能 カニゼン熱処理300℃ HV750以上 カニボロン熱処理300℃ HV850以上 |
HV800~1000程度の高硬度 |
耐摩耗性 | 優れている | 非常に優れている |
コスト | 比較的高い | 低コストの物もあるが工程により変動 |
2.選択基準
無電解ニッケルめっきと硬質クロムめっきのどちらを選ぶかは用途や求める特性、コストに大きく依存します。
以下のポイントを基に選択すると良いでしょう。
・耐食性が重視される場合
使用環境下にもよる所はありますが、基本的には無電解ニッケルめっきの方が適しています。
硬質クロムめっきと比較して、無電解ニッケルめっきの方が被覆性が良いです。
電気めっきはめっきのつきまわりが無電解と比較して悪いことから、腐食リスクはクロムめっきの方が高いと言えます。
特に電気が流れ難い、穴の内部や複雑形状の箇所は、電気めっきと比較して無電解ニッケルめっきの方が被覆性が良いと言えます。
また、塩化水素(HCl)やフッ化水素(HF)など、ハロゲン系ガス環境下での耐食性は無電解ニッケルめっきの方が優れています。
・耐摩耗性を重視する場合
耐摩耗性に関しては硬質クロムめっきの方が優れています。
スガ摩耗試験機 を用いた試験では、クロムめっきは比較的少ない摩耗量を示し、耐摩耗性が高いことが確認されています。
・複雑な形状や高寸法精度が要求される場合
無電解ニッケルめっきの方が適しています。
無電解ニッケルめっきの均一な膜厚や高寸法精度が有利です。
硬質クロムめっきのようにエッジ部の異常析出(花が咲くという現象)もありません。
また、電気めっきのように電極を必要としないので、無電解ニッケルめっきは治具に引っかけて吊るだけで良く、設計者や依頼する側としても使いやすい表面処理です。
3.まとめ
無電解ニッケルめっきと硬質クロムめっきの選択は、部品の使用環境や求められる特性によって異なります。
耐摩耗性を最重視する場合は硬質クロムめっきが一般的に推奨されますが、高精度な寸法管理が必要な場合や複雑な形状の部品には、無電解ニッケルめっきが適しています。
硬さや耐摩耗性もある程度あり、耐食性や膜厚精度や皮膜均一性にも優れている無電解ニッケルめっきは使い勝手が良い表面処理です。
また、環境規制が厳格化される中、六価クロムを使用する硬質クロムめっきは規制対象になる可能性があります。
各々の表面処理方法の特性を理解し、用途に応じた最適な選択を行うことが重要です。