無電解ニッケルめっきは電気を使わずに化学反応によって基材にニッケルベースの皮膜を均一にめっきする方法です。
高い耐食性、均一な厚み、高い膜厚精度、高硬度などの特徴があり、複雑な形状の部品にも均一にめっきが可能です。
対してテフロンコーティングは、フッ素樹脂をプラスチックや金属表面にコーティングする処理です。
離型性・非粘着性や摺動性に優れており、フライパンや炊飯器の内釜にも使用されています。
以下では、これらの表面処理の耐摩耗性や摺動性について比較し、それぞれの利点と注意点について解説します。
1.無電解ニッケルめっき(カニフロン)とテフロンコーティングの比較
テフロンコーティングは離型性・非粘着性や摺動性に優れておりますが、そういった性能を無電解ニッケルめっきに求める場合は、フッ素樹脂(PTFE)を皮膜に含有させたカニフロン等のめっき処理が用いられる事が一般的です。下表はカニフロンとテフロンコーティングの比較になります。
皮膜 | カニフロン | テフロンコーティング |
耐磨耗性 | 〇~◎ | △~〇 |
膜厚均一性 |
◎ | △ |
離型性・非粘着性 | 〇 | ◎ |
摺動性 | 〇 | ◎ |
撥水性 | 〇~◎ | ◎ |
2.選択基準
カニフロンとテフロンコーティングのどちらを選ぶかは用途や求める特性、コスト等に大きく依存します。
以下のポイントを基に選択すると良いでしょう。
①硬度や耐摩耗性を重視する場合
硬度に関してはカニフロンの方が優れています。
カニフロンはテフロン含有量違いで、Sタイプ、Aタイプ、Bタイプの3タイプがございます。
テフロン含有量が多い順にSタイプ、Aタイプ、Bタイプとなります。
テフロン含有量が少ないカニフロンBは普通の無電解ニッケルめっきと同程度の硬度を持ちます。
そして、テフロン含有量が多くなるに従って皮膜硬度は低くなっていきますが、一番含有量の多いカニフロンSでもめっきのままでHv200~300程度と、テフロンコーティングに比べると硬くなります。
めっき後に熱処理300℃をかけることでより硬くすることも可能です。
カニフロンの熱処理温度と硬度の関係は下記表の通りです。
カニフロンB | カニフロンA | カニフロンS | |
めっき後熱処理200℃ | 400~550Hv | 250~350Hv | 200~300Hv |
めっき後熱処理300℃ | 750Hv以上 | 400~600Hv | 300~400Hv |
※テフロンコーティングは鉛筆硬度F~2H程度です。ビッカース硬度と鉛筆硬度は測定方法が違い、単純に比較できないため、上表からは除外しています。
②複雑な形状や高精度が要求される場合
カニフロンの方が適しています。
カニフロンも、無電解ニッケルめっきなので、均一な膜厚や高い膜厚精度といった性質を有しています。
また、電気めっきのように電極を取らなくても、無電解ニッケルめっきは治具に引っかけて吊るだけで良いので、設計者や依頼する側としても使いやすい表面処理です。
材質や長さ等にもよりますが、φ1㎜程度の小さな穴の中にもめっきをつけた実績はあります。
③離型性・非粘着性や摺動性を重要する場合
離型性や摺動性を最重視する場合はテフロンコーティングが一般的に推奨されます。
しかし、テフロンコーティングよりは若干劣りますが、PTFE含有無電解ニッケルめっき(カニフロン)も滑り性が優れた表面処理です。
一番テフロン含有量の多いカニフロンSでは、テフロンコーティングに近い滑り性を有します。
離型性・非粘着性については、環境によってはカニフロンは優れた特性を発揮する可能性はありますが、
カニフロン表層のテフロンが相手樹脂に転写して持っていかれてしまう環境ですと、徐々に離型性・非粘着性が低下していく可能性があります。
④静電防止効果が要求される場合
カニフロンは無電解ニッケルめっきをベースにしているので、導電性があり静電気が発生しません。
その為、半導体部品や精密機械への使用が可能です。
⑤食品製造装置向け
食品衛生法については、カニフロンも規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)の試験に合格しております。
3.まとめ
部品の使用環境や求められる特性によってカニフロンとテフロンコーティングの選択することが必要です。
離型性や摺動性を最重視する場合はテフロンコーティングが一般的に推奨されますが、
硬度や膜厚精度や皮膜均一性や導電性も求める場合には、カニフロンの方が適しています。
離型性や摺動性もある程度あり、硬度や耐食性や膜厚精度や皮膜均一性にも優れているカニフロンは使い勝手が良い表面処理です。
各々の表面処理方法の特性を理解し、用途に応じた最適な選択を行うことが重要です。